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余談のつづき:虎屋文庫「源氏物語と和菓子」展みてきました 

余談で言及した、赤坂の虎屋の資料展です。6/16まで開催中。

源氏物語の各帖の帖名や内容をイメージして作られたお菓子、または連想させるような銘を持つお菓子が、賑やかに並んでいました。

目をひかれたのは、押物製の数々です。
砂糖や澱粉などを混ぜて適宜着色した生地を、木製の菓子型で成型して作る押物製は、テーマとなる情景や小物をダイレクトに、絵画的にかたどったもの。
デフォルメされたかたち・色・素材の組合せによって抽象的にテーマを表現する こなし ・きんとん製等も、いろいろ空想できて面白いのですが、今回は、押物製の、お菓子にあらざるデザインの美しさに、心底感心させられました。
木型をミリ単位で刻む木型職人と、その溝のひとつひとつを、異なる色彩で埋めていく菓子職人の根性に思いをはせれば、まさに「お見事」のひとことで…。

特に凄いと思ったものをあげると、『絵合』に配された「押物製 写絵(うつしえ)」。頁を開いた冊子本のかたちをしていて、表には風景画が描かれているのですが、裏面も、本の装丁の文様まで、しっかり作られているのです。
それから、『乙女』に配された「押物製 舞披き(まいびらき)」。舞装束の収納箱をかたどったものということですが、白地に桃色の紗をかけたような繊細な色づかいに、目を瞠りました。

その他も、ぜんぶ工藝品のように精緻なお菓子ばかり。押物製って、目にする機会がほとんどないですし、眼福でした、はい。

お菓子をのせた片野孝志氏の料紙も、いっそう豪奢で華やかなものになっていたような。色や文様の異なる数種類の和紙を直線的、波状etcに貼りついであり、取り合わせやバランスなど、一枚一枚、じっくり見てしまいました。


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ところで…。
こないだ、スーパーで買ってきた「銀座木村屋 ミニむしケーキ」を食べようと思ってお皿に出し、フト見たら、源氏香之図の焼印が付いているではありませんか。初めて食べるというわけではないのに、今までまったく気づかなかったー!ブログに記事など書くと、アンテナの感度が高まるのでしょうか。
木村屋のむしケーキ

「花散里」ですね。
木村屋總本店サイトの「よくあるご質問(3)」にも、記載されていました。が、なぜに「花散里」なのかは謎です。図としての美しさからかな。

源氏香之図に意味あり---源氏香(緑)/梨園染 戸田屋商店 

源氏香(戸田屋商店)
伝統的な文様から斬新なデザインまで多彩に取り揃える梨園染 戸田屋商店さんの手ぬぐい。春らしい若草色・・・というより、抹茶色かな。こっくりとした色味が何となくおいしそうで、お茶を淹れて一休みしたくなってしまうので。

香之図と、その帖名にちなんだ植物・小道具を組み合わせた文様がみられます。しばしば見かけますよね。前エントリでご紹介した、虎屋の和菓子もそうでした。
香之図を単独で出されて、どの帖か言い当てられる人は少ないでしょうが、シンボルと一緒ならわかりやすい。華やかにもなりますし、源氏物語のストーリーの連想もしやすい。


前回、各帖に対する香之図の割当は、おもに図の形状の類似をもとにした配列による偶然で、適当なものだと書きました。
しかしながら、そうではなくて、ちゃんと香之図・帖の対応関係には意味があるのだ、図には源氏物語の内容(主要人物の行動)が含まれている、と提唱した方がいます。

中世国文学研究家で、代々、志野流香道を嗜むお家だったことから香道の研究もされた早川甚三さんです(「いわゆる源氏香図について」(『文学と香道』あるむ、初出は昭和42年)。


早川さんによると、香之図解釈の原則は、

(1)縦線。一番左が主人公(源氏or薫)で、その行為が右へと進展していく。
(2)横線。主人公の行為を示す。
(3)大枠のなかの小枠。第二主人公の行為を示す。
(4)枠が重なるのは、(2)(3)が錯綜しているしるし。
(5)縦線の短いのは、子供または愛玩する者のしるし。

ということで、これに従って、桐壺、夢浮橋を除いた52帖について、逐一図解されています。

ちょっと苦しいな〜と思うものが多いのですが、とりあえず、解釈に紫の上が登場する帖を追いかけてみました(かなり省略しています。左から【若紫】。数字は縦線の一番左から1、2・・・です)。
解釈用の図
【若紫】源氏は北山で美しい少女(若紫)をみつけ、二条院に連れてくる(2-3)。一方、藤壺の女御の宿下りのおりに逢瀬がかなう(4-5)
【紅葉賀】源氏は若紫を愛している(2-3)が、藤壺のことも諦めかねている(3-5)。藤壺に子が生まれる(4)
【松風】源氏は上京した明石の上と旧情を暖める(1-2)。姫君のことを打ち明けられた紫の上は、引き取って養育したいと思う(3-4)
【朝顔】朝顔の斎院が退下したので源氏は言い寄る(1-4)。浮気心を不快に思った紫の上の機嫌を取る(2)。故藤壺の女院の思い出を紫の上と語り合い、成仏を祈る(1-3)
【玉鬘】源氏は玉鬘を六条院に引き取る(1-2)。年の暮れに紫の上ほか六条院の女君たちに晴れ着を贈る(3-4-5)
【野分】源氏と紫の上との睦まじい語らい(1-2)。一方、源氏は玉鬘にも執着している(4-5)
【梅枝】源氏や紫の上ほかで香合をする(1-2-3)。明石の姫君(4)が、源氏の心づくしで(3-5)春宮に入内する。
【若菜上】源氏に降嫁した女三の宮に柏木が言い寄る(3-4)。紫の上はさまざまに思い煩う(1-2-5)
【御法】紫の上が死ぬ。源氏は紫の上の霊(3)を抱き、心乱れる(1-4と2-5と交)


そもそも紫式部が、後年に成立する香之図の配列まで見通してストーリーを組み立てたわけもありません。著書『源氏の薫り』内の一章「『源氏香』について」で、この説に触れた尾崎左永子さんは、「早川氏の「私見」であって、その意味づけにどの程度の妥当性があるのか、判断することはできません」(p286)と云われていますように、まあ後付け、牽強付会なのでしょうが、こんなふうに当てはめて考えてみるのも楽しいじゃありませんか。学問にだって、このくらい遊びがなくちゃね〜。

ところで、江戸時代に香之図が文様として広がると、それぞれについて、対応する帖の内容に即して時候と吉凶が定められました。慶事に凶の文様を使ったり、季節はずれにならないよう、染物屋さんなどでは留意したようです。
こちらのサイトに一覧があるので参照して下さい。


『手拭いづくし―注染』
戸田屋商店製の手ぬぐいの写真に、文様の解説をつけた本。カタログとしてもお役立ち。

余談:赤坂の虎屋で、「源氏物語と和菓子」展(5/17〜6/16) 

源氏香之図にからめて、虎屋の押物製菓子を紹介するつもりだったところ、次回展示の予告を発見。

虎屋文庫資料展 -第70回 源氏物語と和菓子展

毎回、貴重な古文書や、めずらしい和菓子を見られて嬉しい虎屋文庫の資料展ですが、数あるテーマのなかでも、源氏物語関連は人気が高いようです。和菓子ファンのみならず、源氏ファンも注目しますものね。
源氏物語千年紀ですから、もしかして・・・と思っていましたが、やったー。

虎屋の押物製

これは、第63回(2003年)「源氏物語と和菓子」展小冊子の扉のカラーページを撮影したものです。
香之図に、その帖名にちなんだ植物を配してあります(上:「花宴」、右:「紅葉賀」、左:「桐壺」)。
湿った砂糖に澱粉等をまぜ、木型に押し込んで作る「押物製」という和菓子で、葉脈や蘂まで表現した木型の繊細さ、色わけの鮮やかさが見どころ(職人技!)。

サイトに出ている写真は、撫子=押物製「常夏」ですね。
今回はどんな展示になるのかな〜。楽しみです。

源氏香之図の並び順---源氏香 (滅紫・柳葉・空色) / あひろ屋 

源氏香(あひろ屋)


源氏香の手ぬぐいといえば、これが定番でしょうか。あひろ屋さんです。
3色とも、淡いながらも爽快感のある色調で、ごつい香之図も、ふしぎと優しく見えます。
使っていて、たいへん心地いいですね。
1色ずつでももちろん綺麗ですが、3色並んだ美しさも格別。


さて、前エントリの続き。

組香のうち、「縦線を引き、同じ香どうしを横線で結ぶ」という記号を用いるものは、その記号の形状から、「系図香」と呼ばれます。「源氏香」も、系図香のひとつです。
系図香は、過去には、なんと10種焚き(縦線10本)まで存在したそうです。いったい幾つの記号が出現するのかというと、

3種焚き→5個 (少なすぎる)
4種焚き→15個 (まだ物足りない?「古法源氏香」というのはこれ)
5種焚き→52個 (源氏香。ゲームとしても、このくらいがちょうどいいか)
6種焚き→203個 (すでに多すぎの感) ---

10種焚き→115975個 (!!!!!)


文様としても、縦線3本や4本ではあっさりしすぎてつまらないし、6本以上では煩雑すぎてくどくなりそう。やはり、5本くらいが適当でしょう。普遍化するにはわけがありますね。


組香としての「源氏香」は、たいだい江戸時代前期の寛永から享保ごろに完成したとされていますが、香之図の記号と各帖を、誰が、いつ、現行のように割当てたのかは分かりません。

すべて異香の記号で始め、すべて同香の記号で〆るというのは、わかりやすいチョイスです。
しかし、それ以外の記号は、どのように配列されたのか?なにか規則性・順列性があるのか?
・・・こういった疑問については、おもに数学的アプローチで研究されてきたようですが、結論としては、「ある程度、規則性をもって並べようとした意図がみうけられる」ということらしいです。

そんな研究者のおひとり・森口繁一さんは、名刺大の香之図カードを作り、実際に並べて検証。13枚ずつ並べたときに、強い左右対称性の法則が見出されるとして、次のように、割当のプロセスを推測しておられます(「源氏香図の謎」『UP』27-7 1998より)。

(1)最初の第2帖と、最後の第53帖を配置する。
(2)第15帖ぐらいまで、「比較的第2帖に近いと思われる文様」から、順に(しかしある程度は無作為に)割当てていく。
(3)第17帖あたりまで割当てたところで、第9帖が第3帖の、第13帖が第4帖の裏返しであることにに気付く。そこで、第18帖から第26帖までは、「第5帖以降の文様の裏返し」を拾い出して並べる。
(4)第16帖の文様は裏返しても同じなので、第27帖には、これに似た形で、やはり「左右対称な文様」を割り当てる。
(5)残り二十六種類の文様を、「互いに裏返しの関係」になる十六種類(八対)、「左右対称な文様」九種類、「第17帖の文様の裏返し」一種類、に分類する。
(6)最上段三列目に、「第17帖の文様の裏返し」を配置し、四列目には、同じように「互いにからみ合った二つの香の組合せの間に第三の香を入れた形」の文様を並べる。
(7)三・四列目に、「互いに裏返しの関係」になる対を、ほどよい間隔で配置する。
(8)あいているところに、「左右対称な文様」を対にして配置する。


【参考図】
森口「源氏香図の謎」より転載 (コピーを撮影したので、不鮮明でスミマセン・・・)

こんがらがってきますから、「うん、なんとなく似た形が並んでいるな?」くらいに思っておけばよいかと。

源氏香之図のあらまし---源氏香(煤竹色)/源氏物語千年紀 

「源氏物語千年紀」記念グッズの手ぬぐいです。

源氏物語千年紀手ぬぐい「源氏香」パッケージ


今年2008年は、源氏物語が記録にあらわれてからちょうど1000年(『紫式部日記』寛弘5年(1008)11月11日条に「若紫」「源氏」の記述あり)ということで、イベントが各地で行われているようです。(源氏物語千年紀委員会

源氏物語千年紀手ぬぐい「源氏香(煤竹色)」

源氏香之図(源氏香図、源氏香文などとも)の文様と、対応する巻名がずらりと並んでいます。

この錠前みたいなかたちの文様、好きなんですよね。幾何学的ですっきりと単純ながら、風雅で、意味深なムードもあって。美術館や博物館に行って、着物や屏風絵、調度品などにこの文様を発見すると、何がなし嬉しくなってしまいます。

これは、「源氏香」という組香で用いる記号です。
一の香〜五の香まで五包ずつ、全部で二十五包、用意しておく。
これを混ぜて、ランダムに五包取り出す。
順番に、一包ずつ焚いていく。
香りを五本の縦線であらわし、同一と思うものどうしを横線でつなぐ(右から一番目、二番目・・・)。
源氏香図の例

ぜんぶ違うと思えば、図の左のように。
ぜんぶ同じと思えば、真ん中のように。
一番目と三番目、二番目と四番目が同じと思えば、右の図のようになります。

この図に、源氏物語五十四帖の巻名が対応しているので、それも書き添える。
しかるのちに、さあ聞き分けられたか否か?と答えあわせします。

五種類の組み合わせは五十二ですので、慣例では、
1)桐壺(巻頭)と夢浮橋(巻末)は省略する。
または、
2)桐壺と賢木を同形、夢浮橋と行幸を模様違いにする(三番・五番を繋げる。上で→行幸、下で→夢浮橋)。
とします。

一覧など・・・Wiki「香の図」


この手ぬぐいの源氏香之図は、骨太でカクカクしがちな意匠を、カドをやわらげた、優しい雰囲気で表現してあるところが好きです。


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