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  本の感想文、手ぬぐい紹介にからめた雑談などを

その6:『暗黒事件』 

そろそろ、“ナポレオン芋づる”も一区切り付けようかなーという気分となりまして、巨匠オノレ・ド・バルザックの『暗黒事件』を取り上げ、掉尾を飾りたいと思います。

まずは、おさらい。

    ブルボン朝
  • 1789 フランス革命
    第一共和政
  • 1793.1 ルイ16世処刑
  • 1793.6 ジャコバン独裁(恐怖政治)
  • 1794 テルミドールの反動(ロベスピエール派逮捕)
    総裁政府
  • 1799.11 霧月18日クーデター(ナポレオン独裁へ)
    統領政府
  • 1799.12 ナポレオン、第一統領に就任
  • 1800 ナポレオン、終身統領に就任
  • 1804 ナポレオン、皇帝即位
    第一帝政
  • 1814 ナポレオン退位、ルイ18世即位
    復古王政(ブルボン朝)
  • 1821 ナポレオン死去
  • 1830 七月革命、ルイ=フィリップ即位
    七月王政(オルレアン朝)
  • 1848 ルイ=ナポレオン大統領就任
    第二共和政
  • 1852 ルイ=ナポレオン即位(ナポレオン3世)
    第二帝政

ナポレオンの同世代人は、このように、政体がめまぐるしく変化し、ちょっとした時勢の読み違いが即、生命の危機と結びついたオソロシイ時代を生きていたんですよね。戦争もたくさんありましたし。

『暗黒事件』が描く時間は、主に1804年のナポレオン皇帝即位前夜のころから1812年まで。それから、1833年に後日談がなされます。

主人公は、大革命時の暴力によって父母や所領を奪われた、美しく気高い姫君です(邦訳では“伯爵夫人”と呼ばれたりしますが、未婚の爵位継承者であって、伯爵の妻ではないので“女伯爵”のほうがいいな…。まあ些細なことですが)。

ブルボン王朝複辟を願って臥薪嘗胆する姫君と、その親戚筋にあたる見目麗しい貴公子たちが打倒ナポレオンの隠密活動をしているところへ、警務大臣フーシェの手の者が急襲してきます。

あわやお縄、というところを姫君の機転によって切り抜けて、つかのまの平穏が訪れ、姫君と貴公子たちの恋の鞘当なんぞもあったりします。

しかし、そんな生活も、タレーラン、フーシェといった、激動の政界を嗅覚鋭く生き抜いてきたナポレオンの側近どもの保身・功名争い・復讐心等、様々な思惑によって乱されてしまいます。

---そこには、アンギアン公処刑事件(“余禄”参照)の遠い響きも…。

彼らは、全くあずかり知らぬ陰謀に巻き込まれ、人生を捻じ曲げられてしまいます。

この陰謀の全体像は、長い時が過ぎた七月王政の時代になって、かろうじて一端が明らかになったのみなのでした…。


決して長くはないのですが、非常に複雑なお話ですのでSHUGO.COMさんの3rd edition(仮移転所)>講読ノート>バルザック「暗黒事件」の項を参照してみて下さい。話の筋や登場人物などが詳しくまとめられていて、分かりやすいです。


本書(かつバルザック)の凄味は、雑誌での連載が1841年になされた点にあります。

タレーランが亡くなったのが、1838年(享年84)。
ナポレオンの遺骸がセント・ヘレナ島から移され、パリ人士に熱烈歓迎されたのが、1840年。
そんな時代のことです。

年配の読者にとって、本書に描かれたような、革命以降の複雑怪奇な政情と人心の移ろい、血なまぐさい事件の数々や、“陰謀情念”の人・フーシェが張りめぐらした密偵・警察網の息苦しさの経験は、いまだ生々しい「近い過去」だったことでしょう。
死せる皇帝の帰還によって、政権側にいて疑獄を演出した人々、それにより癒えぬ傷を負った人々が多く記憶を新たにしていたと思われる時点において、当時の警察・裁判制度の歪みを的確にとらえ、赤裸々に暴露してみせたバルザックの、透徹した洞察力に感嘆します。

あまつさえ、後日談という形で、さらに記憶に新しいブルボン家の王様も、「暗黒事件」に一枚…(ごにょごにょ)とまで書いたのですから、その度胸たるや、あっぱれ。


さて、私はこの作品を、小西茂也氏訳の新潮文庫版(1953)で読みました。現在は、古本でしか手に入らないようです。
ankoku

↑古色蒼然たるお姿。
本文も、正字使用だったり、小さい「っ」が全て「つ」だったりと、読みやすいとは言えませんで、はじめはなかなか頁が進まなかったのですが、だんだんと没頭してしまい、後半は一気読みでした。

邦訳としては水野亮氏訳(岩波文庫、東京創元社バルザック全集6巻所収)もありますね。こちらも入手困難でしょうか。図書館でパラパラ見た限りでは、こちらのほうが、字体などは親しみやすそうではありました。


雑駁ながら、これにて。

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