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  本の感想文、手ぬぐい紹介にからめた雑談などを

『不思議なみずうみの島々』 上下(その1) 

不思議なみずうみの島々〈上〉 不思議なみずうみの島々〈上〉
ウィリアム モリス (2002/02)
晶文社

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不思議なみずうみの島々〈下〉 不思議なみずうみの島々〈下〉
ウィリアム モリス (2002/02)
晶文社

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ついに、モリスの散文ロマンスをコンプリート。
思いがけず、はまってしまいました。
(晶文社コレクション、まだ未読タイトルがありますが、ファンタジーではないのでパスさせてもらいます)
久しぶりに、本館ではおなじみだったグラさん&ノラさんのお喋り形式で感想いきます。

グラ :ねらっていたわけじゃないけど、最高傑作が最後に来たかな。

ノラ: 見事なまでにおさまりのよいUターン構成。華やかでシンボリックな事象の数々、さいごまで油断できない筋書き---等々、注目点が多かったね。

グラ: よくもわるくも、心揺さぶられる主人公だったしね(笑)

ノラ: モリス・ファンタジー唯一の女性主人公作品だったね。他作品の主人公は、毒にも薬にもならない「いいひと」ばかりで、どんな行動をとってもフーンという感じで、特に感興をもよおさない場合がほとんどなのに、この作品のヒロイン、バーダロン(独り、という意味だってね)ときたら…。

グラ: まあ、「いいひと」なんだけど、こっちの神経を逆なでし、時には嫌悪感すら抱かせてくれるという稀有な存在だったわ、うん。

ノラ: 女の敵は女、ってことなのかな…?(苦笑)

グラ: 男性作者の理想像的な女キャラってこともあるし、どうしても、厳しい目で見ちゃうわけよ。

ノラ: 完全無欠のモテキャラだもんねえ。絶世の美女にして、性格も非の打ち所なし。家事全般も器用にこなす。女でも好意を持たずにいられないし、男だったら、老いも若きも子供でも、一目みただけで、すっかり心を奪われてしまうという。

グラ: まあ、男たちの感情は、宮廷風恋愛(フィナモール、fin'amor)に属するようなもので、儀礼的な意味合いが強く、肉欲まじりの生々しい情念ばかりではない!と思えばいいのかな。

ノラ: たえず異性から性的関心をもってみられるのって拷問に等しいだろうから、そうあってほしいような気がするね。でも、バーダロンは慣れっこというか、あきらめの境地なんだよなあ。一線を踏み越えてこない限りはとくに拒絶するでもなく、男たちの称賛や求愛を寛容に受けいれちゃって、望まれるがまま、キスさせたり手を握らせたり、ガードの低いこと。

グラ: “天然魔性の女”なのね。

ノラ: うーん、“天然”なのかねえ…。バーダロンは、自分の美貌についても、それが男たち全般に及ぼす影響力についてもじゅうぶんに自覚的だし、必要とあらば、男の好意を利用して、思いどおりに動かすこともためらわないじゃない。

ノラ: では、計算も入っていると…。

グラ: もちろん、人助けとか、素直でまっすぐな人柄のためであって、悪意はないんだけどね。ある意味、ユルユルな娘っ子が、いかに思慮深いオトナの女に成長するか、っていうのが、この作品のテーマのひとつかもね。

ノラ: じゃあ、そろそろヒロイン評はひと段落させて、あらすじに行きましょうか。

2歳ばかりのとき、魔女に誘拐されたバーダロン。〈魔の森〉の奥の、広大な湖のほとりの家で、威圧的な魔女からひどく脅され、農耕や狩猟をやらされながら、美しく豊かな自然に囲まれ、のびのびと育った。
17歳になるころ、バーダロンは、森できれいな乙女に出会う。乙女は、慈悲深い森の聖女・ハバンディアの仮の姿。聖女に知恵と勇気を授けられたバーダロンは、魔女の家からの脱出を決意。魔女が使役している、呪文で動く〈送り船〉の秘密をつきとめる。
船で湖にのりだしたバーダロンが行き着いたのは、〈無為豊穣の島〉。その島では、魔女の姉が、囚われの美人三姉妹を酷使しながら暮らしていた。バーダロンは牢につながれるが、三姉妹の助力を得て脱出。三姉妹の居場所を伝え、助けに来てほしい旨を伝えるために、彼女らの恋人たちが住む〈探求の城〉へと向かう
〈探求の城〉の三騎士は、失踪した恋人の消息を知って喜ぶ。そしてバーダロンの美しさに魅了され、丁重にもてなした。バーダロンも、それぞれタイプの違う美男子である三騎士に好意を抱く。

グラ :ハバンディアは、バーダロンそっくりの姿であらわれて、自分の容貌がどう見えるか、バーダロンに言わせるんだよね。

ノラ :で、「あなたそっくりに化けた」と告げる。そのため、それまで鏡を見たことがなかったバーダロンは自らの美しさを発見し、同時に、それを表現する言葉も獲得することに。

グラ :そのエピソードもだけど、バーダロンが、全裸で魔女のもとから逃げるはめになるのも意味深な感じだ。いざ脱出という直前、湖で泳いでいたときに魔女に見つかり、急いで出発せざるをえなかったからなんだけど。

ノラ :後々、ここに戻ってくる時も、全裸で帰還することになるからね。

グラ :〈無為豊穣の島〉だけど、『輝く平原の物語』の〈不死の国〉同様、ネガティブなイメージだね。魔力によって怠惰な安逸がもたらされているという。

ノラ :ここの捕囚である三姉妹は、それぞれ故郷の恋人と引き離されているんだよね。すなわち、
金の貴婦人オーリア…金の騎士ボードイン
緑の貴婦人ヴィリディス…緑の騎士ヒュー
黒の貴婦人アトラ…黒の従者アーサー

という組み合わせ。色は、服装に由来するもの。

グラ :三姉妹は、恋人への伝言を託して裸のバーダロンを逃がすにあたり、身に着けている、恋人から贈られた思い出の衣裳を少しずつ分けて、きれいに装わせる。

ノラ :旅に出るまで、育ての親の魔女とハバンディア以外の他人を見たこともなく、ましてや若い男性とは無縁だった無垢なる乙女、裸で象徴されるようなピュアなバーダロンが、恋人に焦がれる貴婦人たちの物語を聞き、その衣裳を身にまとうことで、ちょっと変貌するような。

グラ :装う、ということが、虚栄心とか世間知の芽生えを示しているのかな〜。色気づいてしまう、と表現すると下世話すぎなんだけどね…。耳年増になって、恋に恋するようになるというか。

ノラ :城の三騎士が確かに恩人の三姉妹の恋人であるか否かを確かめるため、バーダロンが、借りた衣裳にまつわる思い出をそれぞれサシで告白させるってくだり、えらくエロチックだったね。

グラ :あのとき恋人に触れたとか、脱がせたとかね。

ノラ :もうハラハラですよー。決まったな恋人がありながら、三騎士は揃ってバーダロンにひとめ惚れでしょ。恋人同士しか知りえなかった秘め事が共有されたことで、バーダロンが、彼らの恋の相手になったかのごとき錯覚が起きたというか、ありがちな、「恋の相談にのっているうちに親密度があがる」「不在の恋人より、眼前の美人」現象というかで、三姉妹をさしおいた濃密な関係が、4人のあいだに醸成されていっちゃってさあ…。

グラ :中年の城代さんやマジメな司祭さんコミで、よりどりみどりの逆ハーレムですか。おいおい、おめでてーな!って(笑)。でも、男性作家で逆ハーレムって珍しいよね?

ノラ :乙女ドリームでもあるまいしねえ。まあ、モリスと奥方のジェイン、友人のロセッティとの三角関係のいきさつなんかを見ると、崇拝する美女に振り回されるのを喜ぶマゾっ気素質はうかがえるんじゃない?

グラ :しかしまあ、だんだんとキッツい展開になっていくのよね…。
その2につづく)


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