『幽霊』
![]() | 幽霊 イーディス・ウォートン (2007/07) 作品社 この商品の詳細を見る |
20世紀初頭の女性作家イーディス・ウォートンによる、ゴースト・ストーリーの短編集。
(ウォートンについては過去エントリあり(ココとココ))
怪談は好きですし、古い館そのものも、館を舞台にした物語も好きなので、楽しめました。
ゾゾッとおぞげをふるえるような衝撃はないですが、心穏やかに読める品のいいゴシック調の怪談です。
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「カーフォル」
ブルターニュに建つ古館カーフォルの購入をすすめられた主人公は、見物に出かけていく。なかば廃墟と化した屋敷内は無人で、ただ一群の犬たちが遠巻きに見つめ、追いかけてくるだけだった。帰ってきた主人公は、古めかしい裁判記録を見せられる。それには、18世紀はじめにカーフォルを所有していたド・コルノー男爵の謎の死にまつわる、男爵夫人アンヌの不可解な証言が記されていた。
「祈りの公爵夫人」
ヴィツェンツァ近郊に建つ歴史ある別荘(ヴィラ)を見学にきた主人公。寝室にかけられた肖像画、二百年前の住人である公爵夫人の明るい美貌に心惹かれる。しかし、礼拝堂に安置された、巨匠ベルニーニ作だという祈る夫人の彫像の顔は、悲しげに歪んでいた。案内の老人は、公爵夫人の小間使いだったという祖母ネンチアの体験談を物語りはじめる。
「ジョーンズ氏」
ケント州のベルズ屋敷を相続することになったジェインは、家政婦や女中らの不自然な態度に気づいて不審を抱く。彼女たちは、屋敷を管理しているジョーンズ氏なる使用人に絶対服従しているようなのだが、当のジョーンズ氏はまったく人々の前に姿を見せないのだ。屋敷の歴史に関心を抱いたジェインが、友人とともに書類保管室を調べ始めると、家政婦の身に変事が起きる。
「小間使いを呼ぶベル」
小間使いとしてブリムプトンに住み込んだ当初から、アリスは、黒っぽい服とエプロンを着けた痩せた女をしばしば目撃していた。どうやら、前の小間使いエマのようなのだが、他の人には見えていないらしい。屋敷には、物静かな奥様がひっそりと住んでおり、だんな様は不在がちで、奥様は隣人のランフォード氏を読書仲間として無聊を慰めていた。
「柘榴の種」
シャーロットは、前妻エルシーと死別した弁護士アシュビーの後添えだ。幸せな結婚生活をはじめたばかりだったが、断続的に届く夫宛ての手紙に脅かされるようになる。手紙を読んだ夫は、明らかに様子がおかしくなるのだ。浮気かと疑ったシャーロットは、夫に手紙のことを問い詰める。その直後、夫が失踪した。
「ホルバインにならって」
「脳軟化症でゆっくりと死にかけているあのかわいそうなおばあさんは、今でも自分はニューヨーク社交界の花だと思いこみ、招待状を発送し、いまだにヌマガメ、シャンパン、蘭の花を注文し、いまだに毎晩、想像上の招待客の流れを出迎えに、紫のかつらにティアラをゆがんで付けて、家具に埃よけの覆いをつけた広い客間に階上から降りてくるのだと。」(p222)---老耄したミセス・ジャスパーを憐れむニューヨーク社交界の花形アンソン・ウォーリー氏は、今夜も一張羅に身を固め、パーティーに出掛けていく。その行く先は…。
「万霊節」
ホワイトゲイツの主人である寡婦セアラは、万霊節の前夜、「屋敷で働く娘に会いに行く」という見慣れぬ女を目撃したあと、足首を捻って寝たきりを余儀なくされる。ひと寝入りして目覚めると、屋敷のなかに大勢いるはずの使用人が誰ひとりいない。セアラは家中を探し回って疲弊しきり、アルコールの力を借りて眠りに落ちた。再び目覚めた時は、屋敷は常の様子に戻っていた。そしてちょうど一年後、セアラはまた例の女を見、従妹の家に逃げ出した。
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類型といえば類型、古風といえば古風(「ホルバインにならって」だけは異色)。
ただ、この因縁はこれこれこうで〜と皆まで開示されず、寸止めで終わっているのが絶妙ですね。勝手に想像して、勝手に怖がれる自由があります。
ここに描かれたものに限るのか、西洋の幽霊全般にいえることなのか、ただ無機質にそこに存在している、というタイプが多い。特定の場所にしか出ないし、血まみれだの生首だの、無闇におぞましい外見も取らない。直接的に怨恨がある人に対して影響力を及ぼすだけ。または、なにか訴えたいことがあって、気づいて欲しくてそっと姿をあらわすだけ。
これが日本の怪談だと、うっかり幽霊の領域に踏み込んでしまった無関係な人を見境なく呪いちらしたり、憑依したり、肉体的な危害を与えたりという、無差別祟り型も多いんで、傍観者の立場を守りきれずに恐怖感倍増〜なわけですが。
ところで、巻末収載の、作者ウォートンによる序文。
(前略)私がはじめて幽霊ものの創作に手を染めて以来、現代人にはそれを楽しんで読むのに必要な能力がほとんど衰えてしまった、という悲しい発見をしてきました。…「柘榴の種」(…)がはじめてある雑誌に掲載されたときのこと、…幽霊がどうして手紙を書けるのか、どうしてレターボックスに入れられるのか、教えてほしいという質問がどっときました。(後略)
そんなことがあるの?と、ちょっと驚いてしまいました。妙なことを杓子定規に悩むものなんだな〜と。作者によると、「ラテン系の人」は幽霊話ダメで、「妖精の国ウェールズやスコットランドの人」はOKなんだそうです。文化的土壌の違いですか。
日本人は後者のグループに入るんでしょうね。
- [2007/08/14]
- 本|海外作家 |
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